ヨーロッパ一周バックパッカー18日目:ベオグラードで見た「再生する都市」と人の強さ
クロアチアを出て、長距離バスでセルビアの首都・ベオグラードへ向かった。バスの車窓から見える風景はのどかで、牧草地の向こうに赤い屋根の村が点在している。けれど、国境を越えるたびに胸の奥にわずかな緊張が走る。ヨーロッパの東側を旅するということは、ただ風景を眺める以上に「歴史」と向き合う行為なのだと感じる。
戦火をくぐり抜けた街の息づかい
ベオグラードに着くと、思っていたよりもずっと活気に満ちていた。人々の表情は明るく、街のあちこちから音楽が流れてくる。しかし、建物の壁にはいくつか弾痕が残り、過去の痛みが静かに語りかけてくる。
まず訪れたのは「ベオグラード要塞(カレメグダン)」。ドナウ川とサヴァ川の合流地点に立ち、戦争の記憶と共に何百年も街を見つめてきた場所だ。その上から見下ろす夕暮れの川は穏やかで、まるで過去を包み込むような優しさを湛えていた。
過去を隠さず、未来へ進む若者たち
宿のオーナーはロンドン帰りのセルビア人女性だった。「ベオグラードは痛みを消さない街。でも、その痛みがあるからこそ新しいものが生まれるの」と彼女は言った。
実際、街のカフェやバーは若者たちであふれている。ストリートアートが壁を彩り、地下バーではジャズやテクノが鳴り響く。“再生”という言葉が、空気の中に自然と溶け込んでいた。
旅をしていると、どの国でも「新しい世代」が希望をつくっているのを感じる。ベオグラードも例外ではなかった。
ドナウ川沿いの黄昏
夕暮れ、ドナウ川沿いを歩いた。川面に沈む夕日が金色に染まり、ゆっくりと夜が始まっていく。川沿いのバーに入ると、サックスの音が風に乗って聞こえてきた。地元の青年たちがビール片手に談笑しており、私もいつの間にかその輪の中に加わっていた。
「どこから来たんだ?」と聞かれ、「日本から」と答えると、驚いたように笑いが起きた。「遠いね。でも音楽は距離をなくす」その言葉が妙に心に残った。彼らと肩を並べて聴いたジャズは、世界のどこにいても通じる“平和”の象徴のように感じられた。
自由という名の夜
夜のベオグラードは、まるで別の街のように輝く。路地裏のバーではダンスが始まり、通りには笑い声があふれていた。戦争で多くを失った国だからこそ、“今を生きる喜び”を全身で表現しているようだった。
街角でアコーディオンを弾く老人がいた。彼の音色は懐かしく、切なく、どこか祈りにも似ていた。チップを渡すと、彼は微笑みながら言った。「旅人は、自由の証だ。」その一言が、心に深く刺さった。
旅が教えてくれること
ベオグラードで過ごした一日は、「再生」の象徴のようだった。破壊された街が再び文化を生み、音楽が流れ、人々が笑う。その姿に、人間の強さと希望を見た。
旅はただの移動ではない。他人の痛みを知り、自分の小さな価値観を広げていく行為。この街でそれを強く感じた。
明日はドナウ川を北上して、ハンガリーのブダペストへ。流れる川がつなぐ街々のように、旅もまた、続いていく。
― 川滿憲忠