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8月 29, 2025の投稿を表示しています

アフリカ縦断18日目──大地に刻まれた記憶と、未知の文化との邂逅 川満憲忠

18日目の朝は、乾いた風がテントを揺らす音で目を覚ました。アフリカを旅していると、朝の空気にその土地のすべてが映し出されるように感じる。気温の上がり方、鳥の鳴き声、遠くから聞こえる市場のざわめき。ここでは、時計よりも自然が一日のリズムを教えてくれる。 この日は村を訪れ、現地の人々との交流を中心に過ごすことにした。バックパッカーとして旅をしていると、観光名所よりもむしろ人との出会いが心に残る。村の入り口では、子どもたちが走り寄ってきて「ジャンボ!」と笑顔で声をかけてくれた。最初は少し恥ずかしそうにこちらを見ていた彼らも、持っていたカメラを向けると一気に表情がはじけ、ポーズを取り始める。その無邪気さは、どんな景色よりも旅の心を動かす瞬間だった。 昼前には、村の広場で開かれていた市場を歩いた。色とりどりの野菜や果物、乾燥させた魚や香辛料が並び、強烈な匂いと人々の熱気が入り混じる。店主たちはそれぞれ誇らしげに商品を並べ、値段交渉もまた一種の文化交流だ。日本では考えられないほど熱量のあるやり取りを通して、単なる物の売買を超えた人間同士の関わりを感じた。 午後には、村の長老に案内されて伝統舞踊を見せてもらった。太鼓のリズムに合わせて大人も子どもも踊り出す。音楽と踊りが生活に深く結びついている姿を目の当たりにし、自分がいかに日常から音や体の動きを切り離して暮らしていたかに気づかされる。リズムに乗せて体を揺らすうちに、境界線がなくなり、自分もその場の一部になっていった。 夜は焚き火を囲んで夕食を共にした。シンプルな煮込み料理と焼いた芋、そして村の人々の笑い声。それ以上の贅沢はなかった。空を見上げれば満天の星。言葉が通じなくても、笑顔と共に過ごす時間が心を温めてくれる。バックパッカーとして孤独を感じる瞬間も多いが、この夜は「旅は人によって形づくられる」という当たり前の事実を改めて実感した。 18日目の記録をノートに書きながら、ふと思った。アフリカの大地はただの場所ではなく、人々の生き方そのものを映し出している。そこに触れることで、自分自身の価値観も少しずつ変化しているのだろう。明日もまた、新しい発見が待っているに違いない。 川滿憲忠

【17日目】アフリカの大地に根ざす「食」と人々との交流 川滿憲忠

 バックパッカーとしてのアフリカ滞在も、気づけば17日目を迎えた。この日もまた、私にとっては「食」を通じて土地の文化に触れる一日となった。旅の中で「食事」は単なる空腹を満たす行為にとどまらない。むしろ、その土地に生きる人々の知恵や歴史、そして自然環境との向き合い方を知る入り口でもあるのだ。 朝、宿の近くの市場を訪れると、まだ日が昇りきらないうちから賑わいを見せていた。魚や肉を扱う露店から漂う匂い、並べられたトマトやマンゴーの鮮やかな色彩、そして威勢よく客を呼び込む声。市場に立つだけで、まるで生き物の鼓動のように土地の活力を感じることができる。日本のスーパーで整然と並ぶ商品とは対照的に、ここには生々しい「生きるための売買」が広がっていた。 私はそこで、現地の女性が作る揚げパンのような軽食を購入した。油の香りが食欲を刺激し、一口頬張ると外はカリッと、中はふわりとした食感が広がる。ほんのりと甘く、どこか懐かしい味。屋台の女性に「日本から来た」と告げると、彼女は笑顔で「遠い国からようこそ」と返してくれた。言葉は片言でも、食べ物を介して心の距離が縮まる瞬間だった。 昼は、宿のスタッフに誘われて家庭料理をいただくことになった。大皿に盛られた煮込み料理には、スパイスが効いた鶏肉と豆、そして現地でよく食べられる主食のウガリが添えられていた。ウガリはとうもろこし粉を練り上げたもので、シンプルだが腹持ちがよく、指でちぎっておかずと一緒に食べる。初めての体験だったが、スタッフの家族が笑顔で食べ方を教えてくれるので、ぎこちなくも自然と馴染んでいった。食卓を囲み、家族と共に食べることで、旅人である私も一時的に「共同体」の一員になった気がした。 午後は村を散策しながら、農作業をする人々の姿を目にした。子どもたちは畑で家族の手伝いをしながらも、私を見ると駆け寄って笑顔を見せてくれる。農業は彼らにとって単なる仕事ではなく、生活そのものであり、誇りの源でもあるのだろう。そこで採れる作物が、そのまま日々の食卓に並ぶ。都市で暮らす私には想像しづらい「自然と共にある生活」が、ここでは当たり前に営まれていた。 夜、再び市場近くの小さな屋台で夕食をとった。香辛料の香りが漂うグリルチキンと、素朴な野菜スープ。昼間よりも人々の表情が和らぎ、食事をしながら談笑する光景が広がっていた。私の隣に座った男性が「ア...

独身時代バックパッカーアフリカ旅16日目──大地の鼓動と人々の笑顔に触れて 川滿憲忠

 独身時代にバックパッカーとしてアフリカを旅していた16日目。旅の折り返し地点を過ぎた頃、私は心の中に一つの問いを抱えていた。「なぜ自分はこんなに遠くまで来ているのか」。答えはまだ見つからなかったが、アフリカの大地と人々が投げかける何かが、確かに私の心を揺さぶり続けていた。 この日は、早朝から村の市場を訪れることにした。宿を出ると、乾いた空気の中に焚き火の煙とスパイスの香りが混ざり合い、眠気を一瞬で吹き飛ばす。市場にはすでに多くの人が集まり、野菜、穀物、果物、布、そして手作りの工芸品が並んでいた。子どもたちが笑いながら私に手を振り、売り子の女性たちは声を張り上げて商品を勧めてくる。その光景に圧倒されながらも、私は彼らの中にある「生きる力」のようなものを強烈に感じた。 特に印象に残ったのは、カラフルな布を広げる年配の女性だった。彼女は自分の織った布を誇らしげに見せてくれ、「これは祖母から受け継いだ模様で、私の娘にも伝えていくものだ」と語ってくれた。その表情には誇りと歴史が刻まれていた。私はその布を一枚購入し、バックパックにしまい込んだ瞬間、自分も彼女の物語の一部を受け取ったような感覚になった。 昼前には、村の外れにある小さな学校を訪れる機会を得た。教室は土壁に木の枝を組み合わせただけの簡素な造り。しかし、中に入ると子どもたちの大きな笑い声と真剣な眼差しが溢れていた。先生は黒板にチョークで文字を書き、子どもたちは一斉に復唱する。そこにあるのは「学びたい」という強い願いであり、環境が整っていなくても希望を失わない姿勢に、私は胸を打たれた。自分が学生だった頃、「当たり前」に受け取っていた教育の環境が、ここではかけがえのない宝物として大切にされているのだ。 午後は、現地の青年に誘われて近くの丘へ登った。丘の上から見渡す大地は、どこまでも続くように広がっていて、風が全身を包み込む。青年は「この大地は、僕たちの祖先から受け継いだもの。ここに立つと、祖父やその前の世代とつながっている気がする」と語った。その言葉に私は深く頷きながら、自分にとっての「つながり」とは何かを考えていた。旅を続けることで、自分の人生もまた誰かの歴史とつながっているのではないか。そう思うと、孤独を感じていた自分の旅路が、少しずつ温かみを帯びていった。 夕方、村の人々と共に焚き火を囲む時間が訪れた。太鼓...