独身時代バックパッカーアフリカ編:15日目 サハラの小さな村で感じた人の温かさ 川満憲忠
15日目は、旅の中でもとりわけ印象に残る一日となった。サハラ砂漠の縁に位置する小さな村にたどり着いたのだ。前日の夜行移動で疲れ切った身体を抱えながら、私はバスを降りた瞬間、乾いた風と共に流れ込む砂の匂いに圧倒された。広がるのは無限の地平線。都市の喧騒や観光地の整った景色とは異なり、そこには「暮らす人の生活そのもの」があった。 村に入ると、子どもたちが元気に走り寄ってきた。彼らの笑顔は、旅の疲れを一瞬で吹き飛ばしてくれる。言葉は通じなくても、手を繋いで案内してくれる姿に、人と人との距離を縮めるのに言葉が必ずしも必要でないことを教えられた。 昼食は、村の家族が誘ってくれた小さな家でいただいた。タジン鍋の湯気が立ち昇る食卓に座り、手でパンをちぎりながら分け合う。豪華ではないが、温かさと誠実さが詰まった食事だった。彼らは見知らぬ旅人に食事を分け与え、笑顔で「ここはあなたの家だ」と伝えてくれる。その言葉の重みを、私は深く感じた。 午後は、村の井戸まで一緒に水を汲みに行った。長い道を歩きながら、女性たちが大きな壺を頭に載せて運ぶ姿を見て、日々の営みの大変さを目の当たりにした。観光者として訪れる私は、彼らの暮らしをほんの一瞬だけ覗いているに過ぎない。しかし、その一瞬が、私の価値観を変えるのに十分だった。 夜、砂漠の空は満天の星で覆われた。人工的な光が一切なく、空一面が宝石のように輝いている。村人たちと焚き火を囲み、音楽と手拍子が響く中で、私は「旅は人に出会うことそのものだ」と改めて確信した。宿もない村で寝袋を広げ、砂の上に横になりながら、心の底から「この瞬間に出会えてよかった」と思えた。 独身時代のバックパッカー旅では、不安や孤独も多かった。しかし、こうした瞬間があるからこそ、旅を続けていけるのだと思う。15日目のこの体験は、アフリカで得た「人の温かさ」を象徴する一日となった。 川滿憲忠