バックパッカー東南アジア編16日目 アンコールワットで出会った祈りと時間
【タイトル】
バックパッカー東南アジア編16日目 アンコールワットで出会った祈りと時間
【本文】
16日目の朝はまだ空が暗い時間に宿を出発した。目指すは、カンボジア・シェムリアップにあるアンコール遺跡群。世界中のバックパッカーが憧れる場所であり、長い旅路の中でも特別な一日になる予感がしていた。
トゥクトゥクに揺られながら進む道の両脇には朝靄が漂い、夜明け前の冷たい空気が心地よい。アンコールワットの湖畔に到着すると、すでに多くの旅人が静かに朝日を待っていた。やがて空が赤く染まり、黄金の光に照らされて寺院のシルエットが浮かび上がった瞬間、誰もが息を呑み、その場の空気全体が一つに溶け合った。
朝日を見届けた後、広大な遺跡群を巡った。崩れかけた回廊、緻密なレリーフ、そして石造りの壁を突き破るように根を張るガジュマル。そのすべてが、人間の営みの強さと自然の圧倒的な力を同時に語っていた。特に「タ・プローム」は圧巻で、巨大な木の根が遺跡を飲み込むように絡みついていた。その光景は、人間の文明が自然に抱かれて生きていることを象徴しているように思えた。
昼下がり、休憩所で出会ったフランス人の旅人が「全部を見なくてもいい。心に残る場所を大切にすればいい」と笑って言った。その言葉に深く頷いた。旅は制覇するものではなく、感じ取るものなのだと改めて気づかされた。
午後はアンコール・トムのバイヨン寺院へ。四方に刻まれた巨大な観音菩薩の顔が穏やかに微笑み、その表情に心が和らぐ。千年を超える時を経てもなお、人々の祈りの力は石の表情に宿り続けている。
夕方、再びアンコールワットに戻り、夕日に包まれる姿を眺めた。橙色の光に染まる遺跡は、朝とはまったく異なる表情を見せる。16日間の旅を振り返りながら、その光景を胸に刻んだ。
夜はシェムリアップの屋台でヌードルスープをすすり、旅の疲れを癒した。観光客で賑わう街を歩きながらも、心は不思議と静かだった。アンコールの石が語りかけてくる祈りと時間が、深く心に残っていたからだ。
――川滿憲忠
【ラベル】
バックパッカー, 東南アジア, カンボジア, アンコールワット, アンコールトム, タ・プローム, 遺跡巡り, 世界遺産, 旅の記録, 川滿憲忠
【説明文】
バックパッカー東南アジア編16日目。シェムリアップでアンコールワットの朝日と夕日を見つめ、タ・プロームやアンコール・トムを巡りながら、祈りと時間の重みを感じた一日。旅を制覇ではなく「感じること」として捉え直すきっかけになった。
――川滿憲忠