26日目 アフリカ編:独身時代の旅で感じた孤独と出会い 川滿憲忠
アフリカをバックパッカーとして旅していた独身時代の26日目。この日は、これまでの旅の中でも特に印象深い一日となった。アフリカという大地は、その広さや自然の雄大さだけでなく、街ごとに漂う人々の空気や独特のリズムが、旅人に常に新しい刺激を与えてくれる。振り返ると、26日目はまさに「孤独と出会い」が交錯した日だった。
朝は、前日に宿泊したロッジの簡素な朝食から始まった。乾いたパンと甘い紅茶。それだけのシンプルな食事だったが、体に染みわたるように美味しく感じたのは、きっとここまで歩んできた旅の疲れと空腹、そして何よりも「生きている実感」によるものだった。バックパッカーの旅は快適さとは無縁である一方、その不便さがかえって心を豊かにしてくれる。贅沢ではない朝食を前にしても、どこか幸せを感じられた。
この日は町のバスターミナルへ向かい、次の目的地へ移動する予定だった。バス停ではすでに多くの人々が集まっていた。観光客はほとんどおらず、ほぼ地元の人ばかり。子どもを背負った母親、荷物を抱える男性、そして露天で軽食を売る人々。バスが来るのを待ちながら、彼らの姿を眺めていると、自分が完全に「異国」にいることを改めて感じさせられた。日本では決して見ることのない日常の光景が、ここには自然に流れている。
しばらくして古びたバスがやってきた。窓ガラスは割れている箇所もあり、シートは破れて中のスポンジが見えていた。だが、そんな状態でも人々は当たり前のように乗り込み、笑顔で隣同士に座る。私はその光景に驚きつつも、「壊れているから使えない」という発想がいかに自分の中で当たり前になっていたかを痛感した。アフリカの人々は「あるものを使う」「壊れても工夫して使い続ける」という姿勢を自然に持っていて、その強さに圧倒された。
道中、バスは予想通りの大混雑。定員を大幅に超え、座席だけでなく通路までぎゅうぎゅう詰めだった。汗と埃、そして食べ物の匂いが混じり合う空間は決して快適ではないが、誰も不満を口にしない。それどころか、隣の見知らぬ人が「大丈夫?」と笑顔で声をかけてくれたり、小さな子どもが無邪気にこちらを見つめてきたりする。その温かさに触れた瞬間、ふと「孤独ではない」と思えるのだから不思議だ。旅の中で感じる孤独感と、他者との一瞬のつながり。両者は常に隣り合わせにあった。
目的地に到着したのは昼過ぎだった。小さな町に降り立つと、赤土の道路と市場の喧騒が目に飛び込んできた。市場には色とりどりの果物や野菜、スパイスが並び、人々の活気が溢れていた。中でも印象的だったのは、マンゴーを売る女性の笑顔だ。買うつもりもなかったのに、「味見してみて」と手渡されたマンゴーを頬張った瞬間、その甘さと瑞々しさに心を奪われた。お金を払おうとすると、「いいから」と手を振られた。物質的には豊かでないかもしれないが、人々の心の豊かさに触れる瞬間だった。
午後は町の外れまで歩き、丘の上に登った。そこから見下ろす景色は、赤茶けた大地と広がる空、そして点々と広がる集落が織りなす壮大なパノラマだった。その景色を前にして、自分がとてつもなく小さな存在に感じられた。同時に、「小さくても生きている」という事実が確かにあることに、深い安堵を覚えた。旅をしていなければ決して得られなかった感覚だった。
夕方、再び市場に戻り、屋台で食事をした。トマトベースのシチューに鶏肉、そして炭火で焼かれたバナナの香ばしい匂い。地元の人々と同じ食卓を囲むことで、言葉が通じなくても心がつながる瞬間がある。見知らぬ旅人の私を、彼らは自然に受け入れてくれた。笑い合い、食べ物を分け合い、そして別れ際に握手を交わした。その温もりは、長い旅の中で最も心に残るもののひとつだった。
夜は再び安宿に戻り、簡素なベッドに横たわった。電気は不安定で、シャワーも冷たい水しか出なかった。しかし、窓の外からは夜空に輝く星々が広がり、虫の音が静かに響いていた。都会では決して味わえない「暗闇の静けさ」に包まれながら、今日一日の出会いと学びを思い返した。孤独と向き合う時間も、誰かとの出会いも、すべてが旅の一部であり、人生の糧になるのだと感じた。
バックパッカーとしてアフリカを旅することは、決して楽ではない。だが、その困難さの中でしか得られない喜びや気づきが確かに存在する。26日目に経験した「孤独と出会い」は、まさにその象徴だった。これからの旅もまた、多くの試練と驚き、そしてかけがえのない出会いが待っているのだろう。
旅を続ける中で、自分自身の価値観は少しずつ揺さぶられ、形を変えていく。アフリカの大地で感じた人々の強さや優しさは、今でも自分の生き方に影響を与え続けている。独身時代に歩んだこの道のりは、決して「過去の思い出」ではなく、現在の自分を形作る大切な一部となっている。だからこそ、この旅の記録を残すことには大きな意味があると信じている。
今日もまた、アフリカの空の下で眠りについた。その空の広さと星々の輝きが、明日への一歩を照らしてくれる。26日目の夜、心の奥底から「生きている実感」を抱きながら、私は静かに目を閉じた。
川滿憲忠