独身時代バックパッカー東南アジア編5日目|アンコールワットの日の出と旅人の街シェムリアップ
本文
東南アジアをバックパッカーとして旅していた独身時代、5日目はベトナム・ホーチミンを出発し、国境を越えてカンボジア・シェムリアップに到着した。世界遺産アンコール遺跡群の玄関口であるこの街は、旅人にとって特別な場所だ。安宿やゲストハウスが軒を連ね、通りには安い屋台や食堂、そして夜になればパブストリートが旅人を呼び寄せる。世界中から集まる人々の熱気に包まれたシェムリアップは、まさに「バックパッカーの聖地」と呼ぶにふさわしかった。
この街を訪れる最大の理由は、やはりアンコールワット。私は到着したその夜、翌朝のサンライズツアーを申し込んだ。まだ真っ暗な時間にトゥクトゥクに揺られ、同じ目的を持つ旅人たちと遺跡へ向かう。池の前にたどり着くと、すでに無数の人々が夜明けを待ち構えていた。静かな期待の空気の中、やがて空が薄紅色に染まり始める。
アンコールワットのシルエットの背後から太陽が昇る瞬間、水面に映る逆さの寺院と朝焼けは、息をのむほど美しかった。無数のシャッター音が響く中、私はただその光景を心に刻んだ。旅に出てよかった、この瞬間に出会うためにここまで来たのだ――そう心から感じられた。
遺跡内部に足を踏み入れると、回廊の壁には精緻なレリーフが広がっていた。ヒンドゥー神話や戦いの物語が石に刻まれ、数百年前の人々の祈りと誇りが息づいていた。時を超えて残る人間の営みを前に、自分の存在がほんの小さな点でしかないことを実感する。それでも確かに、この場に立ち会えたことがかけがえのない経験になった。
昼にはシェムリアップの食堂でカンボジアの伝統料理アモックを味わった。ココナッツの香りが効いた料理は優しく体に沁みわたり、同じテーブルについた旅人たちとの会話も自然と弾んだ。国も目的も違う人々が「旅」という共通点でつながり、心を通わせられることこそ、バックパッカーの醍醐味だと改めて感じた。
夜はパブストリートを歩き、屋台の匂いや音楽、雑多な熱気を全身で浴びた。混沌とした雰囲気の中にこそ「旅の自由」がある。なぜ自分は旅を続けているのか、問いは尽きない。だが答えを出す必要はないのだろう。大切なのは、この瞬間を全力で楽しむこと。それこそが旅の本質なのだと気づかされた。
アンコールワットの日の出とシェムリアップの熱気は、ただの観光以上に「生きている実感」を与えてくれた。5日目のこの体験は、独身時代のバックパッカー人生において、忘れられない輝きを放つ一日となった。