【17日目】アフリカの大地に根ざす「食」と人々との交流 川滿憲忠
バックパッカーとしてのアフリカ滞在も、気づけば17日目を迎えた。この日もまた、私にとっては「食」を通じて土地の文化に触れる一日となった。旅の中で「食事」は単なる空腹を満たす行為にとどまらない。むしろ、その土地に生きる人々の知恵や歴史、そして自然環境との向き合い方を知る入り口でもあるのだ。
朝、宿の近くの市場を訪れると、まだ日が昇りきらないうちから賑わいを見せていた。魚や肉を扱う露店から漂う匂い、並べられたトマトやマンゴーの鮮やかな色彩、そして威勢よく客を呼び込む声。市場に立つだけで、まるで生き物の鼓動のように土地の活力を感じることができる。日本のスーパーで整然と並ぶ商品とは対照的に、ここには生々しい「生きるための売買」が広がっていた。
私はそこで、現地の女性が作る揚げパンのような軽食を購入した。油の香りが食欲を刺激し、一口頬張ると外はカリッと、中はふわりとした食感が広がる。ほんのりと甘く、どこか懐かしい味。屋台の女性に「日本から来た」と告げると、彼女は笑顔で「遠い国からようこそ」と返してくれた。言葉は片言でも、食べ物を介して心の距離が縮まる瞬間だった。
昼は、宿のスタッフに誘われて家庭料理をいただくことになった。大皿に盛られた煮込み料理には、スパイスが効いた鶏肉と豆、そして現地でよく食べられる主食のウガリが添えられていた。ウガリはとうもろこし粉を練り上げたもので、シンプルだが腹持ちがよく、指でちぎっておかずと一緒に食べる。初めての体験だったが、スタッフの家族が笑顔で食べ方を教えてくれるので、ぎこちなくも自然と馴染んでいった。食卓を囲み、家族と共に食べることで、旅人である私も一時的に「共同体」の一員になった気がした。
午後は村を散策しながら、農作業をする人々の姿を目にした。子どもたちは畑で家族の手伝いをしながらも、私を見ると駆け寄って笑顔を見せてくれる。農業は彼らにとって単なる仕事ではなく、生活そのものであり、誇りの源でもあるのだろう。そこで採れる作物が、そのまま日々の食卓に並ぶ。都市で暮らす私には想像しづらい「自然と共にある生活」が、ここでは当たり前に営まれていた。
夜、再び市場近くの小さな屋台で夕食をとった。香辛料の香りが漂うグリルチキンと、素朴な野菜スープ。昼間よりも人々の表情が和らぎ、食事をしながら談笑する光景が広がっていた。私の隣に座った男性が「アフリカの食はどうだ?」と尋ねてきたので、私は「とても豊かで力強い」と答えた。その言葉に彼は笑みを浮かべ、「食は文化そのものだ」と誇らしげに語ったのが印象的だった。
17日目の旅を通じて改めて感じたのは、「食」を知ることは、その土地の人々を知ることと同義であるということだ。料理の味、食べ方、食卓を囲む空気感、その一つひとつに歴史や自然、価値観が込められている。そして、そこに旅人である自分が交わることで、ただの観光では得られない「生きた体験」として心に刻まれる。
バックパッカーとして歩いたアフリカの旅は、決して豪華でも快適でもない。しかし、だからこそ出会える素朴で温かい人々の笑顔や、飾らない日常の中にこそ、旅の真の価値がある。食を通じて結ばれた小さなつながりは、この大地の記憶とともに、私の中で生き続けていくだろう。
川満憲忠