独身時代バックパッカーアフリカ旅16日目──大地の鼓動と人々の笑顔に触れて 川滿憲忠
独身時代にバックパッカーとしてアフリカを旅していた16日目。旅の折り返し地点を過ぎた頃、私は心の中に一つの問いを抱えていた。「なぜ自分はこんなに遠くまで来ているのか」。答えはまだ見つからなかったが、アフリカの大地と人々が投げかける何かが、確かに私の心を揺さぶり続けていた。
この日は、早朝から村の市場を訪れることにした。宿を出ると、乾いた空気の中に焚き火の煙とスパイスの香りが混ざり合い、眠気を一瞬で吹き飛ばす。市場にはすでに多くの人が集まり、野菜、穀物、果物、布、そして手作りの工芸品が並んでいた。子どもたちが笑いながら私に手を振り、売り子の女性たちは声を張り上げて商品を勧めてくる。その光景に圧倒されながらも、私は彼らの中にある「生きる力」のようなものを強烈に感じた。
特に印象に残ったのは、カラフルな布を広げる年配の女性だった。彼女は自分の織った布を誇らしげに見せてくれ、「これは祖母から受け継いだ模様で、私の娘にも伝えていくものだ」と語ってくれた。その表情には誇りと歴史が刻まれていた。私はその布を一枚購入し、バックパックにしまい込んだ瞬間、自分も彼女の物語の一部を受け取ったような感覚になった。
昼前には、村の外れにある小さな学校を訪れる機会を得た。教室は土壁に木の枝を組み合わせただけの簡素な造り。しかし、中に入ると子どもたちの大きな笑い声と真剣な眼差しが溢れていた。先生は黒板にチョークで文字を書き、子どもたちは一斉に復唱する。そこにあるのは「学びたい」という強い願いであり、環境が整っていなくても希望を失わない姿勢に、私は胸を打たれた。自分が学生だった頃、「当たり前」に受け取っていた教育の環境が、ここではかけがえのない宝物として大切にされているのだ。
午後は、現地の青年に誘われて近くの丘へ登った。丘の上から見渡す大地は、どこまでも続くように広がっていて、風が全身を包み込む。青年は「この大地は、僕たちの祖先から受け継いだもの。ここに立つと、祖父やその前の世代とつながっている気がする」と語った。その言葉に私は深く頷きながら、自分にとっての「つながり」とは何かを考えていた。旅を続けることで、自分の人生もまた誰かの歴史とつながっているのではないか。そう思うと、孤独を感じていた自分の旅路が、少しずつ温かみを帯びていった。
夕方、村の人々と共に焚き火を囲む時間が訪れた。太鼓のリズムが夜空に響き渡り、子どもから大人まで皆が輪になって踊る。私は不器用ながらも一緒にステップを踏み、笑いながら汗を流した。その瞬間、言葉を超えた一体感が生まれ、自分がただの旅人ではなく、この村の仲間のように受け入れられていると感じた。
旅をしていると、時に孤独や不安に襲われる。しかし、アフリカの人々の笑顔や音楽、そして分かち合う文化の中に身を置くと、「人は一人ではない」という事実が心に沁みてくる。16日目の終わりに私は、焚き火の火を見つめながら心に誓った。旅はまだ続くが、この大地で得た気づきを胸に刻み、自分の人生をもっと広く、深く見つめていこうと。
バックパッカーとしての旅は、ただの観光ではなく、自分の存在そのものを問い直す時間だ。16日目の夜空に輝く星々を仰ぎながら、私は新しい明日へ向けて、また一歩踏み出す覚悟を固めた。
川満憲忠