独身時代バックパッカー アフリカ編|9日目 タンザニア・ンゴロンゴロで見た「命の循環」

 独身時代にアフリカをバックパッカーとして旅していた頃、私はタンザニアの大地に立っていた。9日目の目的地は、世界遺産にも登録されている「ンゴロンゴロ保全地域」。そこはまさに、地球の鼓動をそのまま体感できるような場所だった。


朝、安宿から出発すると、ジープの荷台に揺られながら冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。標高が高いためか朝の空気は凛と澄んでいて、目の前に広がるサバンナの景色を一層くっきりと際立たせていた。ガイドが「今日は運が良ければ、ライオンの狩りが見られるかもしれない」と笑う。その一言に胸が高鳴った。


やがてジープがクレーターの縁を下り、巨大な盆地のようなンゴロンゴロの内部へと入っていく。そこはまるで「自然界の縮図」。草を食むシマウマの群れ、群れを成すヌー、のんびりと歩くキリン、泥の中で休むカバ…。本で読んで知っていた「サバンナの命の営み」が、いま目の前で繰り広げられていた。


しばらくすると、ガイドが小声で「ライオンだ」と告げる。ジープを止め、双眼鏡を覗くと、草むらに潜む数頭のライオンが見えた。やがてその視線の先には、群れからはぐれた小さなシマウマがいた。緊張が走る。ライオンが身を低くし、ゆっくりと忍び寄る。その一瞬一瞬に、こちらまで息を飲んだ。


結果として、その狩りは失敗に終わった。シマウマは必死のスピードで逃げ切り、ライオンは肩で息をしながら草むらに姿を消していった。安堵と同時に、どこか切なさを覚える。だが、ガイドは淡々と言った。「これが命の循環。捕食者がいて、草食動物がいて、植物がある。どれかが欠けても、この地のバランスは崩れる」。その言葉が深く胸に刻まれた。


昼食は、ジープの横で簡単な弁当を広げる。乾いた風が吹き、遠くで象の群れがゆっくりと移動していくのが見えた。アフリカに来て以来、こんなにも命の存在をリアルに感じた日はなかったかもしれない。都会に暮らす自分にとって「生きる」ということは、毎日の仕事や人間関係に意識が向きがちだ。だが、このサバンナでは、生きることがそのまま自然の一部であり、何よりも真剣で尊い営みなのだ。


夕方、クレーターを後にして宿へ戻る途中、空はオレンジ色に染まっていった。アフリカの夕陽はなぜこんなにも大きく、そして胸を打つのだろう。ジープに揺られながら、その光景を焼き付けた。明日もまた、この大地で新しい出会いと発見があるのだろうと。


9日目の旅を振り返ると、ただの観光以上のものを得たと感じる。動物の姿を見ただけではなく、「命の循環」を目の当たりにしたこと。それは、後の人生にも影響を与えた大きな学びとなった。自然は、人間の都合など考えずに、淡々と営まれている。だからこそ、その中に生きる存在の一つとして、自分もまた責任を持って歩まなければならないのだと。


独身時代に体感したこのアフリカの大地での一日。その記憶は、年月を経ても色あせることなく、今も鮮明に私の心の中に息づいている。


川滿憲忠

このブログの人気の投稿

子連れで楽しむ千葉県2泊3日ドライブ旅行まとめ──鴨川シーワールドから海辺の絶景まで

【まとめ】子連れシンガポール3泊4日!1歳&2歳と家族で感じた安心と楽しさ(川滿憲忠)

子連れ(1歳と2歳)で挑む7泊8日のヨーロッパディズニー旅行まとめ