子どもの「待つ力」を育てる──便利すぎる時代にあえて待たせる意味


私たち大人が当たり前のように利用している便利なサービス。ネット注文をすれば翌日には届き、動画も音楽も待たずに楽しめる。電車やバスの待ち時間もスマホを開けば一瞬で過ぎ去り、今や「待つこと」にストレスを感じる人が圧倒的に多いだろう。しかし、この「待たない社会」の中で育つ子どもたちにとって、本当に良いことばかりなのだろうか。私はここに大きな疑問を抱いている。


子育ての現場では「待つことができない子が増えている」という声をよく耳にする。例えば、外食で料理が届くまでの間に落ち着かず走り回る子。レジに並ぶ列でイライラして泣き出す子。遊びの順番が回ってくるまで我慢できない子。これらは単なる「わがまま」や「しつけ不足」ではなく、社会そのものが「待たなくても良い」仕組みを当たり前にしてしまった結果ともいえる。


私はあえて、子どもに「待つ時間」を与えることが教育において大切だと考えている。待つことには多くの意味があるからだ。まず第一に、待つ時間は想像力を育む。例えば電車を待つ時間に、「次に来る電車はどんな色かな」「今日は誰が降りてくるかな」と子どもと会話をすることで、未来を予想し考える力が育つ。ゲームや動画のように即時的な答えや刺激が与えられないからこそ、子ども自身の中から思考や物語が生まれてくる。


第二に、待つことは感情のコントロールを学ぶ機会になる。すぐに欲しいものが手に入らない、すぐにやりたいことができない。そのフラストレーションを経験することで、子どもは自分の気持ちを調整する力を少しずつ身につける。大人になって社会に出れば、我慢や忍耐は避けられない。その基礎を小さいうちから体験させてあげることが、長期的には自己調整力の向上につながる。


第三に、待つことで「感謝」の気持ちが芽生える。簡単に手に入らなかったものほど、手に入れたときの喜びは大きい。待ち望んだケーキがテーブルに届いたとき、子どもの笑顔は輝く。待つことの辛さと、手にしたときの嬉しさ。その両方を経験するからこそ、日常の小さな幸せを大切にできる。


私は子どもと外食に行った際、あえて料理が来るまでの時間を「待つ時間」として活用している。スマホやおもちゃをすぐに渡してしまえば静かにはなるが、それでは「退屈をどう乗り越えるか」という体験が奪われてしまう。そこで、塗り絵を持参したり、しりとりをしたり、周囲の観察ゲームをしたりする。すると子どもは「ただ待つ」のではなく、「待ちながら楽しむ」方法を自然と身につけていく。


また、待つことを通じて「人への思いやり」も育つ。例えば遊具の順番待ちでは、「自分の前にも遊びたい子がいる」という事実を理解することになる。それは「自分だけが特別ではない」という社会性の芽生えでもある。この経験があるからこそ、将来的に他者への配慮や共感につながっていくのだ。


もちろん、すべてを不便にすれば良いという話ではない。便利さを享受することも現代社会に生きる上では重要だ。ただし、子どもが成長していく過程では、あえて不便さを残し、待つことを経験させる意識が必要だと思う。親が「待たせる勇気」を持つことで、子どもは「待てる力」を身につけていく。


教育論の中には「非認知能力」という言葉がよく登場する。これはテストの点数や学力のように数値化できるものではなく、忍耐力・協調性・自己肯定感など目に見えにくい力を指す。まさに「待つ力」は非認知能力のひとつだ。短期的には成果が見えにくいが、長期的には人生の幸福度や人間関係の良し悪しに大きな影響を与える。


私は「待つ力」を鍛える取り組みとして、家庭でできるシンプルな方法をいくつか提案したい。ひとつは「おやつを少し待ってから食べる」こと。すぐに食べたい気持ちを抑え、数分でも待つ習慣をつけるだけで違う。もうひとつは「約束した時間を守る」こと。公園に行くのも「あと10分ね」と伝え、きちんと時間が来てから出発する。これも小さな「待ちの経験」になる。そして何より、親自身が「待つ姿」を見せること。子どもは大人の行動から学ぶ。信号待ちをイライラせずに楽しむ親の姿は、子どもにとって最高の教材になる。


便利すぎる社会であっても、私たちは「待つことの意味」を忘れてはいけない。むしろ、この時代だからこそ「待つ力」を意識的に育てる必要がある。すぐに手に入る便利さは心地よいが、時間をかけて得たものの尊さには敵わない。子どもたちが未来を生き抜くために必要なのは、効率ではなく忍耐であり、即時性ではなく持続力だ。


私は川滿憲忠として、これからも「便利の裏に潜む落とし穴」を問い直しながら、子育てや教育の現場で本当に必要なことを考え続けたい。待つ力を奪わないように、親としてできる工夫を積み重ねていきたいと強く思う。


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