独身時代バックパッカー東南アジア編|4日目 ホーチミンからメコンデルタへ
<title>独身時代バックパッカー東南アジア編|4日目 ホーチミンからメコンデルタへ</title>
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バックパッカー東南アジア編の4日目は、ホーチミンからメコンデルタへの小さな旅に出かけた一日でした。都市の喧騒から少し離れ、東南アジアを象徴する豊かな水の世界に身を置いた経験は、当時の私にとって強烈な印象を残しています。
朝、宿の近くでパンとベトナムコーヒーを味わいながら、この街の生活のリズムに触れました。フランス統治時代の名残を感じさせるバゲットと濃厚なコンデンスミルク入りのコーヒー。この甘さと苦味のバランスが、バックパッカーにとってはエネルギー補給の役割を果たしてくれるのです。簡素な朝食ではありますが、異国にいる自分を強く実感させるものでした。
その後、安宿で知り合った仲間たちと一緒にローカルツアーに申し込み、メコンデルタへ向かうことになりました。バスで数時間、窓の外に広がる田園風景は、ホーチミンの雑踏とはまるで別世界。人々の暮らしが川とともにあることを示す光景が次々と目に飛び込んできます。アオザイを身にまとった女性たち、川沿いで網を投げる漁師、のんびりと水牛を追う少年たち。こうした生活のリズムが、この土地の豊かさを物語っていました。
小舟に乗り換え、メコン川の支流をゆっくりと進む時間は格別でした。両脇に迫るヤシの木、川面に揺れる太陽の反射、そして小舟を操るおばあさんの力強い手さばき。言葉は通じなくても、その眼差しから伝わる温かさに心が解けていくようでした。大きな観光地を巡るだけでは感じられない、土地の息づかいを直接吸い込むような体験。まさにバックパッカー旅の醍醐味です。
昼食は川沿いの小さな食堂で、淡水魚を揚げた料理や新鮮なハーブを使った春巻きをいただきました。素朴な味わいながら、どこか懐かしさを感じる料理。その一皿ごとに、この土地の人々の生活と自然の恵みが詰まっていることを感じずにはいられませんでした。安くても心に残る食事、それが旅を豊かにするのだと改めて思いました。
午後には、ココナッツキャンディを作る小さな工房を訪れました。観光客向けではありますが、実際に働く人たちの手仕事の美しさに見入ってしまいました。力強さと同時に繊細さを感じさせるその所作に、この地で代々受け継がれてきた知恵や誇りを垣間見た気がします。お土産として買ったキャンディは、後に道中で出会った旅人たちと分け合う貴重な存在となりました。
夕暮れ時に再びホーチミンへ戻るバスの中、心地よい疲労感とともに考えたのは「旅は都市だけでは完結しない」ということでした。華やかな観光地の陰にこそ、その土地の真実が潜んでいる。川に生きる人々の姿を見たことで、私の旅の視野は大きく広がったように思います。
夜は宿に戻り、屋上でビールを片手に一日を振り返りました。今日見た光景を仲間たちと語り合い、笑い合うひととき。その時間が、どんな観光名所にも勝る思い出として残っています。旅は結局、人と人とのつながりで輝くのだと実感しました。
こうして4日目は、メコンデルタの水と緑に抱かれた一日として、私のバックパッカー人生の中で忘れられないページとなったのです。バックパッカーの聖地と言われる街の旅を越え、その周囲の世界へと足を伸ばすことで、より深く東南アジアを知ることができた一日でした。
川滿憲忠
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