韓国バックパッカー4日目──軍事境界線からソウルへ、旅の終わりに見えたもの
4日目の朝は、薄曇りの空の下、板門店近くのゲストハウスで迎えた。前日までの緊張感と興奮が混ざった軍事境界線の体験を胸に、今日はソウルへ戻る最終行程の日だ。地図をテーブルに広げ、コーヒーをすすりながら、今日のルートを再確認する。この瞬間も、旅の終わりに向かっていることを少しずつ実感していた。
荷物を背負い、最寄りのバス停まで歩く。舗装の甘い道、時折すれ違う軍関係の車両、そして街角で売られている屋台のトッポッキ。地元の人たちは慣れた様子で行き交い、観光客である自分だけがこの風景に特別な意味を感じているようだった。
途中、最後の寄り道として、軍事博物館に立ち寄った。展示されている兵器や写真の数々は、これまで本やニュースで見てきた戦争の記憶を、より立体的で生々しいものに変えてくれる。観光地というより、歴史の重さを静かに感じる場所だ。そこには修学旅行らしき学生たちもいて、ガイドの説明に真剣な表情で耳を傾けていた。
昼前にはソウル行きのバスに乗り込み、車窓から徐々に広がっていく都市の景色を眺める。ビル群が近づくにつれて、昨日までの静けさとは対照的なエネルギーを感じる。バックパックを抱えたまま街中に降り立つと、クラクションや人のざわめきが一気に押し寄せた。
ソウルでの最初の目的地は南大門市場。狭い路地にぎっしり並んだ露店では、衣料品からキムチ、韓国海苔まで何でも揃う。交渉をしながら買い物をするのも楽しいが、値段のやりとりよりも、商人たちの活気ある声や笑顔に惹かれる。市場の中ほどにある食堂でビビンバを注文し、スプーンで混ぜながらこの旅の出来事を思い返す。
午後は景福宮へ向かった。朝鮮王朝時代の壮麗な建築と広大な敷地は、現代の高層ビルに囲まれてなお威厳を放っている。宮殿を歩きながら、過去と現在がこんなにも近く共存しているのは韓国ならではだと感じた。観光客も多く、日本語や英語、中国語が入り混じる中で、異国にいる感覚が一層強まった。
夕方、清渓川沿いを歩く。街の中心を流れるこの川は、整備されてから観光名所になり、市民の憩いの場でもある。ベンチに腰掛けて川面を眺めていると、会社帰りの人々やデートを楽しむカップルが行き交う。旅の最終日、こうした日常の風景を見ることで、この国が戦争の記憶を抱えながらも前に進んでいることを改めて感じた。
夜はソウル駅近くのゲストハウスにチェックイン。シャワーを浴び、バックパックを整理していると、背中にずっしりとした疲労とともに、達成感が広がる。この4日間、軍事境界線から都市の喧騒まで、自分の足で見て、感じ、考えた。観光パンフレットやSNSでは伝わらない、生の空気と温度がそこにはあった。
眠りにつく前、窓の外に広がるネオンを眺めながら、この旅が自分にとってどれほど大きな意味を持ったのかを静かに噛み締めた。軍事境界線という非日常と、ソウルの日常。その両方を体験したからこそ、この国を少しだけ深く知れたような気がする。
川滿憲忠