【南米放浪記】地球で最も乾いた場所で見た「静寂」──チリ・アタカマ砂漠11日目
今日の舞台は、チリのアタカマ砂漠。バックパッカーの間では名高いが、決して観光地然とした空気ではなく、むしろ「自分自身と向き合う場所」として知られている。
ホステルの朝は静かだった。カップに注いだお湯が、ゆっくりと湯気を立てる。チリ北部の高地は朝晩が冷え込むので、少しの温もりがとても贅沢に感じられる。窓の外では、まだ誰も通らない赤茶けた道が広がっていた。
午前10時、「月の谷」へのツアーが出発した。名前のとおり、まるで月面のような風景が延々と続くその場所は、自然が生み出した神秘の結晶のようだった。ガイドの説明を最初は熱心に聞いていたが、途中から言葉よりも目に映る景色に集中するようになった。
目の前に広がる岩山、風に吹かれる砂、小石が転がる音、それだけで心が満たされていく。日常で溢れる情報が、いかに自分の感性を鈍らせていたかを痛感する瞬間だった。
午後は塩の地層を歩いた。足元が滑りやすく緊張感はあるが、それ以上に「この地面に数千年の歴史が詰まっている」と思うと、一歩ごとの重みが違ってくる。
夕暮れの瞬間、ツアーの誰もがカメラを構える中、私はそっと目を閉じた。音のない世界。自分が世界の一部であることを、こんなにも強く感じたことはなかった。
ホステルに戻ると、オーナーの家族が小さな子どもをあやしていた。その姿を見て、不思議と心が安らいだ。「自分にも、こうして誰かと穏やかな日常を過ごす日がくるのだろうか」と思いながら、また夜空を見上げる。
アタカマ砂漠──ここは何もない。しかし、何もないからこそ、すべてがある。そんな場所だった。
川滿憲忠