南米バックパッカー旅12日目|アンデス高地を越えて心が再生された夜
旅の12日目。私は、チリ北部のアタカマ砂漠からペルーのラ・パスへと移動を続けていた。目指したのは、アンデスの峠越え。地図上は一本道だが、心の中ではまるで人生の峠を越えているような感覚だった。
数年前はバックパックだけを担いで、未知の土地に飛び込んでいた。今この記事を書いている時点では、子どもを抱えて旅を続ける中年だ。その分、当時の旅の価値観はさらに輝いて見える。
バスは夜通し進んだ。暗闇の中を走る車窓には、アンデス山脈の輪郭だけがうっすらと見えた。標高5000m級の峠では息が苦しく、歯がカチカチ鳴るほど震えた。しかし、「地球の裏側にいる」という実感が、自分を冷静に支えてくれた。
国境を越えてペルー側に入ると、風景が変わった。乾燥地帯から急に緑が戻ってきた。空気の匂いも変わり、湿気と草の香りを感じた。文明とは距離があっても、生命の息吹はここにもある。
夕方、ラ・パスに着いた。全身クタクタだが、心は満たされていた。高地の都市に広がる家々の灯り。その景色を見たとき、「旅とは場所ではなく、視点を広げることなんだ」と確信した。
夜、ホステル屋上からラ・パスの夜景を眺めた。星は見えるのにびっくりするほど都市が明るい。文明と自然、あらゆる要素が溶け合う街の景色が、旅の最後の祝福のように思えた。
これ以上ないというほど厳しく、そして美しい日だった。南米バックパッカーとしての旅が、この12日目でひとつ完結した感覚があった。だが旅は終わらない。いつかまた、新しい地図を広げたくなる日が来るだろう──私はそう信じている。
川滿憲忠