独身時代バックパッカー19日目──エチオピアの山岳都市ラリベラで感じた祈りの時間 川滿憲忠
独身時代にアフリカを旅したバックパッカーの記録、19日目。エチオピア北部のラリベラに到着した。標高およそ2,500メートルの山岳都市は空気が澄み、昼間でもひんやりとした風が肌を撫でる。ここは「岩窟教会群」で有名であり、ユネスコの世界遺産にも登録されている。世界中から巡礼者や旅行者が集まるが、街の雰囲気は静謐で、むしろ祈りの時間が街全体を包んでいるように感じられた。
朝、まだ薄暗い中で宿を出て、ガイドとともにベテ・メドハネ・アレム(世界最大級の岩窟教会)へ向かった。大地を掘り下げ、岩そのものを彫り抜いて造られた教会は、まるで地下に隠された神殿のようにそびえていた。信者たちは裸足で岩の階段を下り、静かに祈りを捧げる。その光景を目の前にして、ただ「人間の信仰がこれほどまでに大きな建造物を生み出すのか」と圧倒された。
日中は他の教会群を歩いた。ベテ・ギョルギス(聖ゲオルギウス教会)は特に印象的だった。十字架の形に掘り抜かれたその姿は、上から見るとまさに大地に刻まれた巨大な十字。観光客だけでなく、白い布を纏った巡礼者が一心に祈る姿があり、観光地であると同時に「生きた聖地」であることを実感した。
昼食にはインジェラをいただいた。エチオピア特有の酸味のあるクレープ状の主食で、さまざまな煮込みや豆料理を手で包んで食べる。独特の味だが、不思議と旅の疲れを癒すような力がある。現地の人々は笑顔で「ようこそ」と声をかけてくれ、その温かさに心が和んだ。
夕暮れ時、丘の上に登ると、街全体がオレンジ色に染まっていった。遠くで流れる祈りの歌声と、静かな風の音。そこでふと、ここに集う人々は「信じる心」で生きているのだと強く思った。バックパッカーとして各地を巡る旅をしてきたが、この日の体験は特別だった。建築物の壮大さだけではなく、そこに宿る人々の信仰心に触れることができたからだ。
夜、宿に戻り、暗闇の中でノートに今日の出来事を書き留めた。観光というよりも「祈りの現場に立ち会った」という感覚が大きい。この経験は、旅を続ける中でもきっと忘れられないものになるだろう。
ラリベラの一日を終え、私はまた一歩、アフリカの奥深さを知った。19日目は「信仰と祈りの力」に圧倒された日となった。
川滿憲忠