ヨーロッパ一周バックパッカー旅 3日目──祈りの島モンサンミッシェル
ヨーロッパ一周バックパッカーの旅、3日目。パリを拠点に早朝から向かった先は、フランス西部の海に浮かぶ修道院の島──モンサンミッシェルだった。
バックパックを背負い、朝のまだ薄暗いパリを抜け、TGVに乗り込む。都会を離れていくにつれて、窓の外にはのどかなフランスの田園風景が広がっていく。パン屋で買ったクロワッサンを片手に、これから始まる一日の出来事を想像して胸が高鳴った。
途中で鉄道を降り、バスに乗り換える。フランス語の案内板は難しかったが、地元の人々が親切に道を教えてくれた。独身時代、ひとりで旅をしていた僕にとって、こうした「人の優しさ」は孤独を和らげ、むしろ旅を豊かにしてくれるものだった。
やがて遠くに見えてきた小さな影。それがモンサンミッシェルだと気づいたとき、息を呑んだ。潮の中に浮かび上がるその姿は、まるで夢の城。バスの中からも歓声が上がり、旅人同士が同じ瞬間を共有した。
島の入口から石畳の坂道を登り、修道院を目指す。観光地らしい賑わいもあったが、それ以上に石造りの建物の重厚感や潮の香りが、ここが祈りの場であることを感じさせた。修道院に入ると、ちょうど礼拝の時間。修道士の祈りの声が石壁に反響し、静謐で神聖な空気に包まれる。観光に来たはずなのに、心はただ深い静けさに浸されていった。
修道院の高台から見下ろした海は満潮で、島全体が水に浮かんでいるように見えた。その光景は圧倒的で、長い旅路の中で得られる「お金では買えない価値」を体で理解する瞬間だった。
夕方、バスに揺られて再びパリへ戻る道中、僕は今日の出来事を反芻した。修道士たちの祈り、潮に浮かぶ修道院、道中で出会った優しさ──それらがひとつの物語のように心に刻まれていた。夜、安宿のベッドに横たわりながら日記を書き、「旅の意味」について思索する。ガイドブックで知った景色を自分の目で見て、自分の心で受け止めること。それが旅の本質なのだ。
ヨーロッパ一周3日目。モンサンミッシェルで過ごした時間は、独身時代の自由と冒険心があったからこそ得られた特別な体験だった。この日の記憶は、今も僕の中で鮮やかに輝いている。