ヨーロッパ一周バックパッカー旅・11日目|ウィーンの静けさに宿る“芸術の鼓動”>

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プラハから夜行列車に揺られて約6時間。朝焼けに包まれたウィーンに到着した瞬間、胸が高鳴った。  

「音楽の都」と呼ばれる街に降り立つと、どこかで弦楽器の調べが微かに聞こえてくるような気がした。  

ウィーンの空気は澄み渡り、建物の一つひとつがまるで歴史の旋律を刻んでいるかのようだった。


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## シェーンブルン宮殿で見た“完璧”という名の緊張


朝一番で訪れたシェーンブルン宮殿。黄金色に輝く外壁が朝日を浴びて眩しかった。  

庭園に一歩足を踏み入れると、左右対称の世界が広がる。整いすぎた花壇、真っ直ぐに伸びる並木道。  

人間の手による「美の究極形」を見ているようだった。


しかしその完璧さは同時に、どこか不安を呼び起こす。  

自然が整いすぎると、そこに“命の揺らぎ”が消える。  

それでも、ハプスブルクの栄華が今なお色褪せずに残っているのは、この静寂と緊張の中に“人の誇り”が宿っているからなのだろう。


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## ベートーヴェンの家で出会った「音のない音楽」


午後、地下鉄に揺られてハイリゲンシュタットへ。  

小さな住宅街の一角に、ベートーヴェンが暮らした家が残っている。  

彼がここで耳の病に苦しみながらも作曲を続けたことは有名だ。  

部屋の片隅に飾られた「ハイリゲンシュタットの遺書」。  

そこに書かれた震えるような文字に、思わず息を呑んだ。


──「私は絶望の淵にあった。だが、音楽が私を生かした。」


耳が聞こえなくなっても、彼の中には“音”があった。  

それを思うと、芸術とは外の世界ではなく、心の中で鳴り響くものなのだと気づかされる。  

ウィーンという街全体が、彼の沈黙の中の音楽のように感じられた。


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## 美術史美術館で見た“永遠の女性たち”


次に訪れたのは、美術史美術館。  

中に入ると、その壮麗さに圧倒される。黄金の天井、赤い大理石の柱、そして奥行きのある回廊。  

まるで宮殿そのものだ。  

特に印象に残ったのは、クリムトの天井画。  

彼の描く女性たちは、現実を超えた“永遠”の存在のように微笑んでいた。


この街には、芸術が“時間を閉じ込める力”がある。  

それは過去の栄光を懐かしむのではなく、今を輝かせるための記憶として残っているのだ。  

だからウィーンの芸術は、いつまでも古びない。


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## 国立オペラ座で感じた“共鳴”


夕方、国立オペラ座へ向かった。  

立ち見席に並び、たった10ユーロで観る《フィガロの結婚》。  

舞台が始まった瞬間、空気が震えた。  

モーツァルトの音が流れるたび、観客の呼吸がひとつになる。  

音楽とは、国も言葉も超えて人を結ぶものなのだと実感した。


涙がこみ上げた。  

孤独な旅の途中で、これほどまでに心が満たされた夜はなかった。


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## “静けさ”の中に生きる街


夜のウィーンは静かだ。  

だがその静けさは、決して空虚ではない。  

それは、過去と現在、芸術と人間が重なり合って生まれる「深い余韻」なのだ。  

誰かが奏でた音が、まだこの街のどこかで鳴っている。  

それを感じながら、私は宿の窓辺でワインを一口飲んだ。


静けさの中で、自分の鼓動が聞こえた。  

それは旅人としての私の“生きている証”だった。


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旅をしていると、完璧なものよりも、不完全な美に心が動く。  

ウィーンはその両方を併せ持つ街。  

秩序の中に、激情がある。  

沈黙の奥に、音楽がある。  

だからこそ、この街は今もなお、芸術の都であり続けているのだと思う。


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川滿憲忠

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