ヨーロッパ一周バックパッカー旅・12日目|ブダペストの夜に見た“光と影”の街
ヨーロッパ一周バックパッカー旅・12日目|ブダペストの夜に見た“光と影”の街
ウィーンから列車で約3時間。ドナウ川の流れが見えてくると、旅の空気が少し変わった。
ヨーロッパの中でも独特の雰囲気を持つ街──ブダペスト。
華やかさと切なさ、静けさと情熱。そんな相反する要素が、不思議と調和している。
ブダとペスト、二つの顔を持つ街
ブダペストという名前は、ドナウ川を挟む二つの街「ブダ」と「ペスト」が合併してできたもの。
まず私は、西側の丘「ブダ」から街を眺めた。
王宮のテラスに立つと、赤い屋根の家並みが連なり、その先にペスト地区の国会議事堂が見える。
ドナウ川を渡る風が気持ちよく、鐘の音が遠くから聞こえてきた。
この街は、どこか時間がゆっくり流れている。
戦争を経験した街には、派手さの裏に“祈り”のようなものがある。
その静かな強さに、胸の奥がじんわりと温かくなった。
セーチェーニ温泉で出会った、人生のリズム
ブダペストといえば温泉の街。午後は地元で人気の「セーチェーニ温泉」へ向かった。
まるで宮殿のような外観に圧倒されながら、中に入ると湯気の立つ広い露天風呂。
年配の男性たちがチェスを指している姿に、思わず微笑んだ。
湯に浸かると、旅の疲れが溶けていく。
隣に座ったおじいさんが笑顔でハンガリー語を話しかけてくる。
意味はわからないけれど、笑い合うだけで十分だった。
“言葉が通じなくても、心は通う”──そんな瞬間が、旅には確かにある。
湯上がりに飲んだビールが、これまでで一番おいしく感じた。
靴の記憶──ドナウ川のほとりで立ち止まる
夜、ライトアップされたくさり橋を渡って、国会議事堂の近くまで歩いた。
そこに並んでいたのは、無数の鉄の靴。
それは第二次世界大戦で犠牲になったユダヤ人たちを追悼するモニュメントだった。
靴の中に花が差してあり、キャンドルが静かに揺れていた。
観光客たちの笑い声の中で、そこだけが時間の止まった場所のようだった。
私はしばらく立ち尽くしていた。
旅をしていると、“美しい”の裏側にある痛みを知ることがある。
その感覚こそ、旅が教えてくれる“人間の深さ”なのだと思った。
グヤーシュの香りに誘われて
夜更け、屋台街に漂うスパイスの香りに足を止めた。
「グヤーシュ」という牛肉とパプリカのスープを注文。
紙皿を手に、ベンチで一人ゆっくり味わう。
辛さの奥にやさしい甘みがあって、体の芯から温まった。
ふと、横を見ると、若者たちがギターを弾いて歌っている。
彼らの声とスープの湯気が混ざり合って、心が満たされていく。
こんな瞬間こそ、旅の中で一番記憶に残る時間かもしれない。
光と影を抱く街、ブダペスト
ブダペストの魅力は、完璧な美しさではなく「光と影の共存」にあると思う。
痛みを知っているからこそ、優しくなれる。
寂しさを抱えているからこそ、笑顔が温かい。
人の生き方も、きっと同じだ。
温泉の湯気のように、過去の悲しみも少しずつ空に溶けていく。
私もまた、この街のように強く、しなやかに生きていきたいと思った。
次の目的地はクロアチア。
新しい風が、また旅を前に進めてくれる気がした。
川滿憲忠
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