ヨーロッパ一周バックパッカー16日目:モスタルの橋に映る人間の強さと再生の物語
ヨーロッパ一周バックパッカー16日目:モスタルの橋に映る人間の強さと再生の物語
クロアチア・ドブロブニクを出発し、国境を越えてボスニア・ヘルツェゴビナへ。乾いた大地と瓦礫の跡が残る風景を抜け、バスはモスタルへと向かっていた。ヨーロッパの旅の中で、これほど「歴史の重み」を感じる瞬間はなかったかもしれない。
モスタルの中心に立つ「スタリ・モスト」は、まさにこの街の象徴だ。16世紀に建てられたオスマン様式の橋は、1993年の紛争で破壊され、2004年に再建された。私はその橋の上に立ち、風を受けながら、壊れてもなお再び架けられたこの姿に、人の心の力を見た。
戦争が残した爪痕と、それでも笑う人々
街の建物には、今も銃痕が残っている。それでも人々は笑い、カフェでコーヒーを飲み、観光客に手を振る。昼食をとった小さなレストランで、店主の男性が話してくれた。
「ここも昔は戦場だった。でも、今はこうしてあなたのような旅人が来てくれる。それが希望なんです。」
その言葉が心に深く響いた。
壊れた街を立て直すのは建物だけではない。人の心もまた、ゆっくりと修復されていくのだ。
祈りと静寂──モスクの塔の上から
午後、コスキ・メフメド・パシャ・モスクに登ると、モスタルの街が一望できた。アザーンの声が夕暮れの空に響き、風が頬を撫でる。スタリ・モストは金色に光り、まるで過去と未来をつなぐ光の橋のように見えた。
信仰という言葉を、これほど穏やかに、そして力強く感じたのは初めてだった。壊されても立ち上がる。人は何度でも再生できる。その静かな祈りの光景が、旅人の心を包み込んでいった。
ホステルで交わした「戦争を知らない世代」の会話
夜、ホステルで出会ったドイツ人の青年が言った。
「僕たちは戦争を知らない。でも、知ろうとすることはできる。」
その一言に、背筋が伸びた。旅をするということは、ただ美しい場所を巡るだけではない。人々の痛み、記憶、そして希望を知ること。それが「見知らぬ土地を歩く意味」なのだと気づかされた。
モスタルが教えてくれた「再生」という言葉の重み
モスタルの夜は静かだった。窓の外に広がる川の音を聞きながら、ノートを開いた。
“橋は壊されても、人の心はつながる。”
その一文を書き、ペンを置いた。
この街で過ごした時間が、旅の中でも特別な意味を持つことを感じながら。
明日はサラエボへ。戦争の記憶がさらに深く刻まれた街で、私はまた新しい「対話」と「出会い」に触れることになるだろう。
モスタルの橋は、今も青い川に映っている。夕暮れに照らされながら、まるで人間の希望そのもののように輝いていた。
― 川滿憲忠