ヨーロッパ一周バックパッカー19日目:ブダペストで感じた「静けさの中の自由」
クロアチアからセルビアを経由し、夜行バスでたどり着いたのはハンガリーの首都・ブダペスト。
朝霧の中に浮かぶ国会議事堂を見た瞬間、心の奥が静かに震えた。ヨーロッパ各地を旅してきた中でも、この街には特別な“静けさ”があった。
ドナウ川のほとりを歩きながら、橋の上で朝日を浴びる人々を見つめる。
彼らの表情には焦りがない。どこか、時間の流れそのものを楽しんでいるようだった。
旅を続けるうちに、僕の中でも“静けさ”を求める気持ちが芽生えていた。ブダペストはまさにその心に寄り添う街だった。
昼前に訪れたセーチェーニ温泉では、湯気の向こうに人生の断片が見えた。
チェスを指す老人、笑い声を上げる若者、穏やかに話す親子。
どの光景も、完璧ではないけれど、確かに“幸せ”が存在していた。
お湯に身を沈めた瞬間、これまでの疲れが溶け出していくのを感じた。
長い旅の中で、身体だけでなく心までも緊張していたのだと気づいた。
夕方にはゲッレールトの丘へ登った。
ブダペストの街が夕陽に包まれ、やがて夜が訪れる。
ライトアップされた国会議事堂と鎖橋が、まるで宝石のように輝いていた。
その光景の中で出会ったフランス人青年がつぶやいた。「この街は静かだけど、すごく自由だね」。
その言葉にすべてが凝縮されている気がした。
自由とは、喧騒から解き放たれることではなく、自分の中に“余白”を見つけることなのだ。
夜、ホステルに戻り、旅人たちとホットワインを飲みながら語り合った。
それぞれの国、それぞれの物語。共通の言語は少ないけれど、笑いは絶えなかった。
バックパッカー同士の交流には、肩書きや立場は存在しない。
ただ、旅をしているという一点だけで、心が通い合う。
ブダペストでの時間は、旅のリズムを整える“休息”のようだった。
動き続けるだけが旅ではない。立ち止まり、自分の呼吸を感じる時間もまた、旅の一部だ。
この街の穏やかな空気が、それを静かに教えてくれた。
明日はウィーンへ。音楽と芸術の都が待っている。
だけど、今夜だけはこの静けさを胸に刻みたい。
ドナウ川の流れを見つめながら、ノートに小さく書いた。
「自由とは、自分の呼吸を感じること。」
その言葉を残して、ページを閉じた。
旅はまだ続く。だけど、心のどこかで“帰る場所”を見つけたような気がしていた。
――川滿憲忠