ヨーロッパ一周・20日目〜30日目:終わりに近づく旅がくれた“生きる勇気”
20日目を過ぎたころ、旅のリズムが変わった。
最初の10日間は興奮と発見の連続で、まるで走り続けるような日々。
でも20日目からは、どこか落ち着いた静けさが心の中に広がっていった。
旅をすることそのものが「日常」になっていったのだ。
ブダペスト、クロアチア、スロベニア、ドイツ、そしてパリへ。
どの街も、それぞれ違う顔を見せてくれた。
でも、共通していたのは――“生きる強さ”を感じる場所だということ。
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### ブダペストで見た「過去と現在」
ドナウ川にかかるくさり橋を渡る時、足が止まった。
川面に映る街の灯りが、まるで過去と今をつなぐ光のように揺れていた。
この街は、戦争の傷跡を抱えながら、それでも前に進み続けている。
夜のブダペストは本当に美しい。
でもその美しさの奥に、長い年月をかけて積み重ねてきた“悲しみ”と“再生”がある。
そのことに気づいた瞬間、ただの「観光客」ではいられなかった。
歴史を知ることは、痛みを知ることでもある。
けれど、痛みを知って初めて「人は強くなれる」と教えてくれた街だった。
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### クロアチア・ドブロブニクで出会った言葉
オレンジ色の屋根が並ぶ海沿いの街。
アドリア海の青と、石畳の白のコントラストがまぶしかった。
けれど、地元の青年が静かに言った。
「ここは“生き残った街”なんだ。」
観光客の私には、ただ美しい場所にしか見えなかった。
でも彼の言葉に、胸の奥がチクリと痛んだ。
どんなに平和に見える場所にも、そこに至るまでの“闘い”がある。
その現実を無視して「綺麗」とだけ言うのは、少し違うのかもしれない。
この瞬間、私は“見る旅”から“感じる旅”へと変わっていった。
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### スロベニア・リュブリャナの穏やかさ
この街は、穏やかで、美しく、そして驚くほど静かだった。
カフェでコーヒーを飲む人、本を読む学生、川沿いでギターを弾く若者たち。
戦いや競争とは無縁の空気。
でも思った。
「平和って、偶然じゃないんだ。」
きっとこの国の人たちは、選び続けてきたのだ。
争わないこと。奪わないこと。
“優しさを守ること”を。
スロベニアの静けさは、ただの“静寂”ではなく、
痛みを超えた人々の「成熟した強さ」だった。
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### ドイツで再確認した「自由の意味」
終盤に再び訪れたベルリン。
壁の跡地を歩いていると、路上で歌う若者たちの声が響いていた。
グラフィティアートに彩られた壁には、叫びのようなメッセージが描かれている。
秩序の中に自由がある。
ルールを守るからこそ、表現が生きる。
ドイツという国の強さは、まさにそのバランスにあった。
私たちは時に「自由」を誤解してしまう。
なんでも好きにできることが自由ではない。
自分で“選んで進む”ことこそが、ほんとうの自由なのだ。
ベルリンの風が、そう教えてくれた。
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### 最後のパリで感じた“始まり”
30日目の朝、再びパリのモンマルトルの丘に立った。
旅の初日に見た景色と同じはずなのに、まったく違って見えた。
それは、街が変わったのではなく、私自身が変わったからだ。
サクレクール寺院の前で、夕陽に照らされる街を眺めながら思った。
「この旅は、終わりじゃない。新しい自分の始まりなんだ。」
旅をする前の私は、「どこかに行けば何かが変わる」と思っていた。
でも実際は、どこに行っても自分は自分。
変えるのは“場所”ではなく、“心の向き”なのだと気づいた。
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### 帰国前夜に考えたこと
空港近くのホステルで、ひとり荷物をまとめながら過ごした夜。
この30日間を振り返ると、すべてがつながっているように思えた。
出会った人たちの笑顔、偶然の出来事、そして自分の中に生まれた変化。
旅は「非日常」ではなく、“日常を見つめ直すための時間”だった。
だからこそ、帰ることが怖くなくなった。
旅を終えても、人生の中にはまだ無数の「小さな旅」がある。
子どもたちと過ごす日々も、仕事の挑戦も、
どれも自分を育ててくれる“旅”なのだと思えるようになった。
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### そして、これから
ヨーロッパをぐるりと回ってみて思う。
世界は広い。でも、人の心の本質はどこに行っても同じ。
誰かを思う気持ち、愛する気持ち、笑うこと、悲しむこと。
それがある限り、私たちはつながっていける。
旅が終わるとき、人は少しだけ強くなる。
少しだけ優しくなれる。
それは、世界を見たからではなく、
「自分という世界」を見つめ直したから。
だから私は、これからも旅を続ける。
子どもたちと一緒に、日常の中で。
新しい景色を見に行くためにではなく、
今いる場所をもっと好きになるために。
30日間のヨーロッパの旅。
その終わりに、私はようやく気づいた。
旅は終わらない。
生きる限り、私たちは旅人なのだ。
――川滿憲忠