ヨーロッパ一周28日目:ニースで見つけた「自由」という名の青
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ヨーロッパ一周28日目:ニースで見つけた「自由」という名の青
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ヨーロッパ一周もついに28日目。
アヴィニョンからTGVに乗り、南仏ニースへと向かった朝。
車窓の外に広がる地中海の青は、どこか現実離れしていて、
「旅をしている」という実感が心の奥からあふれ出した。
駅を出ると、潮風が頬を撫でた。
アヴィニョンの乾いた空気とは違い、ニースは柔らかく、どこか包み込むような温度を持っている。
家族連れが笑い、カップルが手を取り、ビーチには幸せそうな空気が漂っていた。
その穏やかさの中に身を置くと、旅の疲れさえも心地よいものに感じられた。
プロムナード・デ・ザングレを歩いていると、
ベンチに座る白髪の紳士が穏やかに話しかけてきた。
「どこから来たのかね?」
「日本です」と答えると、彼はうなずいてこう言った。
「旅に時間を使える人は、人生をちゃんと生きている」
その一言に、胸が少し熱くなった。
SNSや効率を優先する毎日から少し離れて、
“生きること”そのものに時間を使う──それこそが旅の意味なのかもしれない。
昼は海沿いのレストランで、ムール貝とエビのグリル。
レモンを絞った瞬間、香りが広がり、ワインが進む。
隣の席では若いカップルがプロポーズをしていて、
店中が拍手に包まれた。
その瞬間、見知らぬ人の幸せを素直に祝福できる自分に気づいた。
旅は、心の境界線をやわらかくしてくれる。
午後は旧市街の路地を歩く。
カラフルな建物、窓辺に咲く花、テラスで笑う地元の人たち。
ひとつひとつの風景が絵画のようで、
カフェで飲んだエスプレッソの苦味までもが記憶の中に刻まれた。
「今日はいい天気ね」と声をかけてくれたマダムの笑顔が、
この街のあたたかさを象徴していた。
夕方、丘の上の「コリーヌ・デュ・シャトー」へ登る。
そこから見たニースの海岸線は、息をのむほど美しかった。
オレンジ色の屋根と、果てしない青のグラデーション。
その景色を前に、ただ静かに立ち尽くした。
「またここに帰ってこよう」と心の中でつぶやく。
旅の終わりが近いことを感じながらも、
新しい人生のページが開かれる予感がしていた。
夜は海辺のレストランで手打ちパスタと白ワイン。
キャンドルの光が波に反射し、
通りを歩く人々の笑い声が心地よいBGMになる。
ノートを開き、今日の一日を丁寧に記す。
「旅は、人生の練習だ」
そう書いた瞬間、静かな確信が心に宿った。
SNSでは伝わらない、写真でも切り取れない、
“生きている実感”というものが確かにある。
それを探す旅を、これからも続けていきたい。
明日はモナコへ。
きらびやかな小国で、またひとつの物語が始まる。
この青の街で感じた「自由」を胸に刻みながら、
今日も静かに夜が更けていく。
川滿憲忠