ヨーロッパ一周31日目:帰国後に感じた「静けさ」と、心の中の旅の続き

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長い旅を終え、飛行機のドアが開いた瞬間、湿った日本の空気が頬に触れた。  

懐かしさよりも、どこか異国に戻ってきたような感覚だった。  

ヨーロッパをバックパックひとつで巡った2ヶ月。  

その最後の朝、体は帰ってきても、心はまだ旅の途中にいるようだった。  


空港の到着ロビーで、行き交う人々の速さに少し戸惑う。  

誰もがスマートフォンを見つめ、急ぎ足で歩いていく。  

旅の中で感じた“人の温度”が、この空間にはないように思えた。  

ローマで出会ったおじいさんの笑顔、ポルトでお茶を誘ってくれたカフェの店主──  

あの穏やかさは、まるで幻だったかのように感じた。  


電車に乗り、流れる窓の外を見つめながら思う。  

同じ景色のはずなのに、違って見える。  

変わったのは景色ではなく、自分自身だ。  

ヨーロッパでの時間が、価値観というフィルターを変えてしまったのだ。  


旅の最中、ぼくは「効率」という言葉を一度も口にしなかった。  

代わりに、「感じる」「立ち止まる」「考える」ことを繰り返していた。  

パリの街角で飲んだコーヒーの味。  

ブダペストで夜風に吹かれた瞬間の静けさ。  

プラハの石畳を歩いたときの足の感触。  

その一つひとつが、旅の断片として今も心の奥に残っている。  


日本に戻り、リュックを床に置いたとき、  

「帰ってきた」という実感と、「もう一度旅に出たい」という衝動が同時に込み上げてきた。  

不思議なことに、旅が終わるとき、人はもう次の旅の準備を始めている。  


夜、机に座って旅の日記を読み返す。  

出発前のページには「不安」と「期待」が並んでいた。  

初日の緊張感、初めての夜の寂しさ、誰も知らない街で迷ったときの焦り。  

でも、その全てが自分を強くした。  


旅先で出会った人々の言葉が、頭の中をよぎる。  

「旅は、世界を変えるんじゃない。君の中の“世界の見方”を変えるんだ」  

あのスペインのホステルで出会った旅人の言葉。  

そのときは半信半疑だったけれど、今ならはっきりとわかる。  

ぼくの中の世界の見方は、確かに変わった。  


日本に戻ると、便利さや安心感の中に「鈍さ」もあることに気づく。  

旅の中で感じた「生きている実感」は、ここでは簡単に薄れてしまう。  

でも、だからこそ思う。  

旅を思い出すことが、また“旅を続けること”なのだと。  


写真を見返していると、笑顔だけではない表情が映っていた。  

疲れきった顔、孤独と向き合う目、でもそのどれもが「生きている瞬間」だった。  

完璧じゃない旅だったけれど、完璧じゃないからこそ本物だった。  


人は誰でも、自分の中に「旅人」を持っている。  

日常の中で冒険すること、未知に挑むこと、  

そして何より「自分を知る旅」を続けること。  


ヨーロッパを一周して得たのは、観光名所の記憶ではなく、  

“生き方”そのものだった。  

自由でいい、不器用でもいい、自分の足で歩けばいい。  

それが、旅が教えてくれたたった一つの真実。  


バックパックを片付けながら、心の中でつぶやく。  

「旅は終わらない。心が覚えている限り。」  


ヨーロッパ一周31日目。  

それは、帰国の日であり、  

人生の新しいページが始まる日でもあった。  


川滿憲忠

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